『津波の霊たち』 リチャード・ロイド・パリー ハヤカワノンフィクション文庫 1020円+税
副題は「3・11 死と生の物語」
英語原題はGhosts of the Tsunami: Death and Life in Japan's Disaster Zone
著者は20年以上日本に住むイギリス人ジャーナリスト。英ザ・タイムズ紙アジア編集長および東京支局長。
2011年3月11日に起きた東日本大地震での被災で、特に小学生74人と教員10人が津波にのみ込まれた石巻市立大川小学校の未曾有の事故を、6年にわたる丹念な取材で、私情を殆ど挟まずに、子供を亡くした立場の異なる親たちの感情をまとめ上げている。
そこで浮かび上がるのは、古くから連綿と流れている日本人社会の、中でも東北の家、考え方、コミュニティー、自治体の在り様、などなど。津波は水ではない、と。この津波の悲劇の問題は、問題の核心は水ではなく日本そのものだった、と。
津波の受け止め方、被災時の対処、教育委員会や学校の危機管理の不十分さ、責任を誰もとらない事、そして、仮設住宅での孤独、などなど、こちらのこころも抉られてくる。だから休み休み読み考えた。
そして、様々な霊魂、幽霊が現れる。それはトラウマなのか、何なのか、著者には分からない。ただ、祈祷師(エクソシスト)には答えは出ないが仏僧でもある彼は仏教の教えで大きな宇宙の動きの一つだと考える。著者は柳田国男の「遠野物語」に出てくる一つの伝承を紹介する。この東北海岸地方は古くから津波の被害は多発していて被災者の幽霊の伝承もよくある。
死者特に被災死者を懇ろに弔わなければならないとじっくり感じた。鎮魂はおろそか出来ない。
私事だか、このところ身内の他界が続きコロナ騒ぎで墓参りもじっくりできないでいる。お盆も近い。死者の鎮魂ということをしみじみ考えている。
復興オリンピックだったはずがすっかりとそれが抜け落ちてしまっている。復興どころか被災者の鎮魂はどこへいってしまったのか。
日本人にはもしかしたら書けない本だったかもしれない。いろいろと考えさせられる得難い著書だ。
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