『知性は死なないー平成の鬱をこえて』

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読書日記

2018年07月06

『知性は死なないー平成の鬱をこえて』 與那覇潤 文芸春秋 1500円+税

我が周囲にも長年の鬱病で悩む人が多くいる。
静かに見守っている他、すべがない。
そんな折本著に出合った。

著者は、若手の大学教員だった。著書多数、ジャーナリズムでも取り上げていたようだ。
が、幼い頃からの世相への関心、長じて政治的不信、職場での理解しあっていたはずの教員の変節などなどで重度の鬱発症。離職し入院をして、現在もリハビリ中だ。病名は躁うつ病(双極性障害U型)。ただ鬱病の原因は一つに絞られず判明しないとの事。
1979年生まれ
平成の世が来年30年間で終わる。およそ平成の治世に、知性に生きてきた彼の、平成時代とは何だったのかと反問、渾身の力を傾けて本著作に取り組んだのだろう。
もともと本を書くというのは知的作業に他ならない。何冊も書いてきた。教鞭もとった。が発病し、書く事はおろか、言葉が浮かばない、口から出てこなくなったという。徐々に能力の低下が起きた。医学的には精神運動障害とよぶ。結果として意欲もなくなった。
ここまで回復できた。世相の分析は流石だ。副題が「平成の鬱をこえて」とある。平成という時代を見返すよい手がかりとなる力作である。調子よく戦後のパンドラの箱を開けてしまった平成という時代、それを収拾する力が、地に落ちてしまった知識人、大学人、ジャーナリズムにあるのか否か、期待しなければならないが…。
読書遍歴の過程で巡り合った言葉に、「しあわせとは旅のしかたであって、行き先のことではない」というものがあるそうだ。彼は知性もまたそのようなものだから、「知性とはまなぶ方法のことであって、まなぶ対象をさすものではない」との信条をもっている。

この著書は文章・語釈全て彼自身の手による。口述筆記やライターに頼ったものではない。療養を2年ほど続けてここまで書けるくらいには回復できることを、同じ病気に苦しんでいる人に示したかったそうだ。専門書はまだ書けない。

いみじくも、これを書いている平成30年07月06日、平成07年に起きたサリン事件の首謀者7名を処刑したとの報道が入った。それ前後の年にもオウム真理教による殺害事件やサリンによる傷害事件が起きていて、通勤時の東京の無差別地下鉄同時多発テロということで、日本のみならず世界を震撼とさせた。

 

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