『人びとのかたち』 塩野七生 新潮文庫 550円+税
塩野さんが映画好きであることがよくわかった。この本は、映画を通して所感をまとめたエッセイ集。
平成7年に初版されていて、それまで雑誌に掲載していたものをまとめたらしい。
平成7年までに観た映画なので、いまでは古いか。
しかし、戦前に映画好きの両親に連れられて観せられていたらしいから、そうとうのものだ。
映画大好き人間が、物書きになった。
映像よりも文字、文章の方がものごとの見えないところまで、つまり頭の中や心の中を描けるという。
彼女の辛口の感受性と観察眼、考察力でどの映画も隅々まで観ている。
俳優ならゲーリー・クーパーが贔屓のようだ。
そして男ならユリウス・カエサルが一番好きだそう。
映画や俳優たちの品格を大切に評価する。 映画『山猫』に関連して書いているところが良いから記してみる。バート・ランカスター演ずるシチリアの老いた貴族とアラン・ドロン演ずる若き成り上がり者が印象に残っている。
"人間には二種ある。ある種のことは死んでも出来ない人間と、それが平気で出来る人間と。この差異は、階級の別でもなく教育の高低でもない。年代の差でもなく
男女の別でもない。スタイル、と呼んでもよいもののちがいではなかろうか。日本語ならば、品格であろうか。品格もパワーの一つに成りえることを忘れていると、社会はたちまち、ジャッカルやハイエナであふれかえることになる。"
これが、ゲーリー・クーパー演ずるところの『ハイヌーン』にも観てとれるのだ。
官能的なもの、記録もの、戦争もの、なんでも観ている。映画館に通えなかったらビデオ、いまではDVDか、買ってきて観る。
戦争ものもよく見る。時代こそ違え、戦いは彼女の書くものの多くを占めるので、歴史を再現してくれていて助かると、可笑しい。それも往年のハリウッド映画がいいと。『プラトーン』などもちゃんと観ている。
インタビュー嫌いのフェデリコ・フェリーニ監督に6時間もイタピューできちゃったりと、本業以外にもおもしろい人生を送っている。
ローマのスペイン階段の上のホテル・ハスラーで昼食をしていたら、隣のテーブルにアメリカ合衆国統合参謀本部議長のコーリン・パウエルが制服姿で座っていた…。NATO高官のたちのランチだったらしいとか。
一人息子との会話も面白い。離婚したシチリア男性との間の子で、当時19歳で出てくるから、今は30歳近いか。「フェリーニは、イタリア人の真実を完璧に描いていながら、われわれイタリア人がイタリア人であることを恥じないですむ作品を創れる人だった」と、すでに随分大人だ。
この本は、映画を通して、塩野七生のスタイルが窺えて実に興味深い。
私は、学生運動盛んなりし昭和40年代始めの学生時代に、「大学新聞」に映評を書いていたノンポリ・ラディカルだった。いまだに映画は好きで古いものも新作もよく見るが、殆どがテレビでの鑑賞だ。自信をもって、もっともっと映画を観よっと。
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