『心の守り方』 小池龍之介 ディスカヴァー・トゥエンティワン 1000円+税
副題は、ー3・11後の世界のー、「非現実」から「現実」へ、とある。
あれから1年、また3月11日が廻ってくる。
今も日本列島いたるところで大きな地震が頻発している。
被災された人たちは勿論、被災をまのがれた人たちも、大なり小なりの不安と心身の傷を抱えているのが現在の日本の精神的状況。
私自身、以前東京電力に席を置いていた者として、こころの傷の深さは計り知れない。表向きは元気にしていても、心の底では怯えきっている。
なんとか立ち直ろうとしているが、たまたま見かける電車内の雑誌の中吊り広告が目に入ったり、たまたま見るテレビのニュースで困難な事態が報じられたりしてして、ますます沈み込んでしまう。
この1年、テレビのニュース・ワイドショーや新聞、一般雑誌は殆ど見ないようにしているのだが。
『心の守り方』は、ある方に教えられて直ぐにアマゾンでネット購入した。
アマゾンの凄いところは注文が午前であればその日の内に宅配してくれる。
著者は若い住職。自身修行を続けながら、座禅の指導や講演、執筆活動をしている。
著書は、心を守るためには、実際に起きた「現実」と頭脳が作り出した「非現実」を仕分ける習慣をつけることだと、分かり易く説いている。
釈迦=ブッダの言葉を引用して、「第一の矢が刺さっても、第二の矢がこころに刺さることは防げるのです、と。
現在は情報過多の時代。
テレビやインターネットで、専門家でもないただの人々が(今はもう専門家はいませんね)、見てきたような嘘とまでは言わないが、未確認の情報を、自分たちは思いやりがあると勘違いして、ツイッターやフェイスブック、ブログなどで軽々に世界中と喋りまくっている。
人間の脳は弱く出来ているから、刺激的な情報は直ちに受けてしまう。それが大量に渦巻いて流れていれば、もっと刺激的な情報をもとめる。
これは強力な洗脳作用であると著者は見る。
この加工された情報が第二の矢としてこころに刺さってしまうのであり、時として致命的になる。自分では意識せずとも偽善であったり差別であったり親切の押しつけとなったりするのだと。
大地震が起きて甚大な被害が発生したのは現実で、これは第一の矢。それから以降の怖いとか不安とか、自粛ムードなどは、自分の脳が情報加工して増幅派生した被害で第二の矢。
ありのままの事実を見つめて、こころの反応を静める事がたいせつである、と。
自己洗脳は自分の脳に言ってやれば解けるはずだと。
曹洞宗の良寛が言う「災難に逢う時節には災難に逢うが良く候、死ぬる時節には死ぬるが良く候」という精神を紹介している。
いかなる状況においても、生存本能に基づいて嘆き悲しみ自分を見失うことなく、「起きてしまってのならこれもまた良し」と受け入れてやれば、こころが復旧し、身体も復旧する、と。
著書の後半は、大被害にあってこれまで幸せ、幸福と思っていたことを再点検しよう、と訴える。
明治以来、ひたすら欲しいものを手に入れ、必要以上に楽で快適であることを実現することに中毒に罹ったようにあくせくと明け暮れた社会だった。
が、本当にそれが幸福な生き方というものか。
この大災害を考え直すきっかけにしなければ。
日本の経済力は確実に転落なくする。が、10位でも20位でもいいはずだ。それで安定して国民が幸福だったら、と。
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