『皇后美智子さまのうた』 安野光雅 朝日新聞出版 1800円+税
ご成婚55年 天皇皇后両陛下の133首 安野光雅が読む とある。
画家である著者は、御所の花々を描く機会に恵まれ、幾度か御所を訪れ御所に咲く花々をスケッチしていて、その場に美智子皇后がお出ましになりお声をかれられたことがあるという。柔らかな風景が感じられる。
御製や御歌を、それにまつわるおもいなどを、行幸の新聞記事や出来事などを通して書き添えてある。
著者は両陛下よりは年上であるが、同じ戦争体験をしていて、今の若いひとたちとは「戦争」というものがあったところが違うという。そこが大きな違いにおもえてくる。
美智子皇后の歌のおもいは広く深い。そしてなにより、哀しさ愛しさに深くこころを寄せられる。
ハンセン病のこと、天災のこと、沖縄のこと、ご成婚のころ、お母上のこと、加冠の儀、などなど、平易でいてしかもこちらのこころがなにか強く動かされるものを感じる。
子に告げぬ哀しみもあらむを柞葉の母清やかに老い給いけり
めったに会えなくなった実家の実母を、何かの催しの際に遠くでみてくれているのをちらっと知った時のおもいであろう。
ご自身の個人的なことは全く控え、ただ陛下のため皇室のためひいては国のために尽くされるお姿が有り難く、清々しくお美しい。
初夏の光の中に苗木植うるこの子どもらに戦あらすな
平成7年の植樹際の時のおもいである。この年、1月に阪神・淡路大震災が、3月に地下鉄サリン事件がおきている。
戦争反対という常用語でなく、戦(いくさ)あらすなと詠う。
「生きてるといいねママお元気ですか」文に項傾し幼な児眠る
平成23年の大津波に両親と妹をさらわれた4歳の少女が、母に手紙を書きながら、その上にうつぶして寝ている写真をご覧になったときの御歌。
被災地には幾度も出向かれ、用意されたスリッパも履かずに跪き、皆の哀しみを受け入れ励まして回るお姿には多くの人びとが救われたと話している。
わたしは、美智子皇后が、被災者に、「たいへんでしたね。生きてくれていて有り難う」と語られたのを聴いたとき、まさに国母でいらっしゃると、世界に誇れる国母でいらっしゃると感じたものだった。
今日、世界で不穏な動くが広まっている。
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