『老いの生きかた』 鶴見俊輔編 ちくま文庫 560円+税
編者鶴見俊輔は今年の夏に亡くなった。早熟秀才でかなり変わった生き方をした。その彼が編した老いについての先人たちのエッセイ。
編者は老いの生き方を「未知の領域にむかって」と考え、若者が読んだら暗いと感じるだろうが云々としている。しかしとんでもない、明るく平易で事の真相を鋭く観察している著者が多い。流石だ。
と読めるのも、私自身数えで古希だからか。未知の領域で右往左往しているからか。
幾つか要点を取り上げてみる。
山田稔 「生命の酒樽」
人間には一生に飲む酒量はさだめられているらしい。ーーー大酒飲みだった高橋和巳が引き合いにされている。高橋和巳は私が学生時代に心酔していた小説家。が病死した。葬儀に私は出席した。他人の葬儀に出席したのはこれが初めてだった。懐かしい。
キケロ 「分別は老熟につきもの」
"大事業というものは、肉体にやどる活気とか突進力とか機動性とかによってなしとげらるるのではなく、思慮と貫禄と見識とによるのであって、老境はさようなものを増大せらるるが常例である。ーーーげに無分別は青春につきもの、分別は老熟につきものである。"と演説する。
金子光晴 「若さと老年と」
経験は、人生を狭くする。そして、人間を用心深くし、早速の処理や、対応の方法をあらかじめ知っておくことができるようになる。だが、どうにもならない事態は、結局、どうにもならないことで、そこには若さも、老年もない。
串田孫一 「小さくなる親」
人間に限らず、全ての生物は老年期に入れば衰え始め、それは子供の見る親の場合でも変わらない。ーーーこれは極く自然の状態であって、小さくならなければ不自然である。従って職場では定年があって当然だし、仕事は控えめにするよう心掛けるのが賢い。周囲との関係を充分に考えた上で、小さい存在へと移っていけば、醜い軋轢はかなりなくなる。
野上弥生子 「巣箱」
疎開で移り住んだ山中での老いの鋭い観察眼で、人間の別荘での避暑暮らしを、鳥の巣箱と同じと見る。人間が鳥より劣るのは、鳥は1回こっきりで二度とは同じ巣には帰ってこないのに、人間は後生大事とがらくたを財として同じ家に溜め込んでいる。カケスは巣作りが上手なことから「懸巣」と名付けられた。
99歳まで執筆活動を続けたこの女性の庵といおうか家が、軽井沢の文化村のようなところに移築されていたのを思い出した。
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