悦子の談話室

「愛・アムール」

     
 

録画しておいた映画「愛・アムール」を観た。
西部邁氏が著書で見て引き込まれたと書いてあって記憶に留めていたのだった。

主演は何とあのジャン=ルイ・トランティニアン。もう50年も前になるのか、アヌーク・エーメと「男と女」という映画に出ていた男優だ。
50年も経つとその面影が浮かばずに、確実に彼も老けたな。

異臭のするアパルトマンに警察署員たちが駆けつけ、女性がちりばめられた花に囲まれてベッドで静かに死んでいるところを発見するところからこの映画は始まる。
「愛・アムール」は老老介護の話インテリで中流階級の夫婦。パリのアパルトマンに優雅に暮らしている。夫人のピアノの教え子のコンサートから帰って来て、夫人が脳梗塞かを発症する。
見たところ夫の方も手足が若干不自然でリューマチかバセドー氏病か。説明はないが。あるいはジャン=ルイがそうなのか。
夫人の希望に従って、ベッドを共にしながら自宅介護を夫が始める。着実に病状は悪化し、ついに壊れて夫人ではなくなる。そんな様を一人娘にみせたくなくて、彼女が来た時部屋に鍵をかけてしまう。観ているこちらのこころが痛む。娘が「真剣に話し合おう」と言うと、「ではお前が引き取ってくれるというのか。老人ホームに入れるのか」。なんとも切ない。
かつてのピアニストとしての演奏会での美しい姿を思い出したりしながら、最後は致し方なく枕で夫人の顔を覆ってしまう。

そんな夫をジャン=ルイが黙々と演じている。
愛とはなにか。夫婦愛とは。親子愛とは。
そして、つくづくと「老い」というものを考えさせられた。

(15.08.29)

 
     

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