悦子の談話室

沈黙の時代に書くということ

     
 

V.I.ウォーショースキーという、シカゴを拠点に活躍する女探偵を主人公にしたてたハードボイルド・ シリーズで名高い作家サラ・パレツキーの来日記念に出版された本である。

勿論彼女の作品は全部読んでいる。
V.I.の、女だてらに強烈なガッツと腕力、勧善懲悪の精神が大好きだ。
そのV.I.に、作家サラは自身の声を代弁させているとのこと。
生身のサラは、弱くしばしば沈黙に陥ってしまう。
そこでこの主人公に"発言"させる。声をあげさせる。

この著は、副題が「ポスト9・11を生きる作家の選択」。
アメリカの同時多発テロから6年後にアメリカで出版されたエッセイ集に、日本語版に向けて2010年書き下ろされた章を加えたもの。
サラは1947年生まれ。名前は、祖母二人ベラルーシュで殺された祖母とリトアニアで殺された祖母に因んでつけられた。自身、命の運命の気まぐれさ、死の恐怖と戦ってきた。
が、それ以上に怖かったのは"自己という意識を失うこと"の恐怖だった書いている。

テロ事件をきっかけにアメリカでは「愛国者法」が制定された。
それ以降、国民のプライバシーが侵害され、自由な発言ができなくなり、人々が沈黙を強いられる社会になったのではないか。
"恐怖の時代"に、作家として何をなすべきか、苦悩している。

以前わたしが電気新聞の書評欄で取り上げた『ブラック・リスト』に、その辺の恐怖の時代観が書かれている。
それを読んだときに、私はサラの苦悩、問題意識を察した。

シカゴのサウス・サイドからグアンタナモ、そしてバグラムへと拷問路線を追う。
白人ばかりのダイナーで黒人の悪漢どもを撃つ場面のある映画「ダーティー・ハリー」で、クリント・イーストウッドの台詞は「楽しませてくれ」だそうだ。その台詞に父親の方のブッシュ大統領が、拍手喝采する方向へアメリカを導いていったとみる。
オバマ大統領になってどう変われるか、見守っている。

読み応えのある一冊だ。
V.I.よ、もっともっと強くなれ。

(10.09.22)

 

 
     

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