8月は、広島・長崎への原爆投下、お盆、終戦記念日、帰省などが重なり、日本人の来し方、戦争観などいろいろと考える。
日本文学研究者のドナルド・キーン氏が著わした『日本人の戦争』(2009年7月15日刊行 文藝春秋)は、主に大東亜戦争の始まった昭和16年後半(真珠湾攻撃勃発)から昭和21年後半(連合軍の日本占領の最初の1年が終わる)までの、日本の作家やジャーナリストらがつけていた日記の抜粋で構成されている。
キーン氏は、太平洋戦争中アメリカ海軍の情報将校で、押収した莫大な量の資料を読むことが仕事だった。その中には多くの日本人水兵や兵士の生々しい日記があったという。
アメリカ軍は情報が漏れることを嫌い日記を付けることは禁止。一方、日本軍は反戦思想が潜んでいないか報告させるために日記を強要した。
まだ読破途中だが、当時の日本知識人の生々しい思想が知れて驚愕する。
非戦を論ずるは作家の永井荷風であり、ジャーナリストの清沢洌らである。
対戦を論じ鼓舞するは彫刻家で詩人の高村光太郎であり、翻訳家の伊藤整らである。
そして、戦後、これらの日記は自身や出版社などの手で改竄される。
人間の、思想、思考の恐ろしく危うい部分を垣間見て、怖くなる。
ましてや知識人と言われる彼らをしてである。
その当時、巷には情報は新聞かラジオしかなかったであろう。
子供の頃明治生まれの母に、「どうしてあんな戦争を止められなかったの」と酷な質問をしたことを覚えている。
母は知的に立派な人だと思いこんでいた。
母は戸惑った顔で、「必ず勝つと信じていた」と。
情報の怖さ、思想の恐ろしさ、信念の危うさを憂う。
(09.08.16)
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