エネルギー・フォーラム社刊「イーピーレポート」視点欄に連載している最近のエッセイ

キャパ写真展”(2004年06月11日)

 没後 50 年を記念したロバート・キャパの報道写真展をこの 5 月に観た。スペイン内戦を取材したものと日本に関係したものに限っての展示だった。あの「崩れ落ちる兵士」もあった。

 彼の作品はこの他たくさんあるが、これだけでも十分である。

 全編を通して、戦場の白黒の写真でありながら、不思議な暖かみを覚えた。彼の視点は、戦争の中でも、人間愛を捉えているのだ。彼はそれを伝えたかったに違いない。

女性民兵のほほえんだ顔、幼子に頬擦りする兵士の姿、最前線で再会を喜び抱き合う民兵と共和国軍兵士、子を背負って戦場から避難する家族、銃をもたない義勇兵がたくさんいる国際旅団の整列、などなど。

 一枚一枚の写真から、たくさんの大切なメーセージが伝わってくる。人間がいかに生きているか、普通の人間同士の愛をいかに守るか、そのために普通の人たちがいかに戦ってきたか。見せる力をもった写真だ。

 今日の報道映像は、生々しく、どぎついばかりで、テレビも新聞雑誌も、正直なところ見たくないものでしかない。戦場や戦い自体がキャパの時代とは違ってきたといってしまえばそれまでだが。人間愛など微塵も感じ取れない。

 キャパは日本とも深い関係があった。 36 年ころ、毎日新聞パリ特派員を通じて当時のパリにいた日本の経済人や文化人との交流があり、 26 歳で取材中に戦車に轢かれて死んだキャパの恋人ゲルダ・タローのタローは、岡本太郎の太郎をもらったという。

 毎日新聞社の招きで日本を訪れていた 54 年 5 月、ライフ社の依頼で急遽羽田からインドシナ戦争の取材に飛ぶ。もう少しいいショットをと、足場をずらして地雷に触れ死亡した。享年 42 歳。『ちょっと、ピンぼけ』でもよかったのに。

 フランス軍歩兵が平原を散会して進撃するする写真で終わる。

[イーピーレポートへ]

NewChibaProject