エネルギー・フォーラム社刊「イーピーレポート」視点欄に連載している最近のエッセイ

気候クライシス”(2007年03月11日)

 『不都合な真実』を書き、同名の映画に出演して話題の元アメリカ副大統領アル・ゴア氏は、地球温暖化を「気候クライシス(危機)」と言う。

 2012年を待たずに、10年から新たな目標を導入すべきと訴えている。そう、08年は目の前だ。世界の地球温暖化防止対策には消極的に見えるアメリカにあって、彼の積極的なこの動きは評価され、一般向け科学誌「サイエンティフィック・アメリカン」が、彼を06年に最も影響力のあった政策指導者に選んだそうだ。

 確かにこのところの気候はおかしい。異常気象が重なり過ぎる。そこへもってきてこの暖冬。東京では雪は降らず終いだ。そして早や野原は春満開である。梅や沈丁花、雪柳は咲き誇り、スギの花粉は飛び散る。野菜はどんどんほきて、畑でトラクターに踏み潰されている。見事な春キャベツが一個99円で店頭に山積み状態。素人でも地球温暖化症状を日常の肌身で感じとっている。

 何時から気候変動が始まったかとか、南極の氷がどれだけ解け出したとか、CO2排出量はどの国が一番とかを議論してももはやはじまるまい。不可逆的な、現代人の身に染み付いたライフスタイルが、地球温暖化症状をきたしているのは誰でも気付いていることだ。だからこそ”クライシス”と言い、倫理の問題として捉え、自然と人間の関係を回復していくことを強く訴えたいのであろう。

 日本には1900年代前半に素晴らしい独学無頼のエコロジー学者がいた。南方熊楠である。十数ヶ国語をものし、世界各地を旅し、大英博物館でも職を得る。「ネイチャー」に論文投稿した数は日本人で一番多いらしい。世界では知られていたが日本の学界は黙殺した彼を、唯一人評価したのが「ネイチャー」の読者昭和天皇だった。

 南方は、グローバルな、そしてローカルな視点をもって、100年も前に日本の、熊野の、自然保護活動を一人で実践していたのだった。今こそ南方の自然を愛する姿勢を学び直さなければならない。  

 

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