こころよりご冥福をお祈りする。
平岩外四氏の思い出は温かく、あの豊かな福耳で穏やかな表情の語り口が偲ばれてくる。
仕事上直のご下問があり、若輩者の私はある提案をさせていただいたがそれを直ちに受け入れて下さり即実行されたこと等思い出す。
初めてお目にかかったのは30年以上も前のこと。吉兆でご一緒した。財界の重鎮でありながら驕らず、親しみ深い雰囲気にたちまち包み込まれた。その時、南洋の戦地で罹ったらしい病が発症し、40度もの高熱が突然出るとユーモアさえ感じさせながら淡々と話された。激戦のニューギニア戦線部隊117人中たった7名生き残れたそのお一人だったのだ。氏の平和を求める原点はそこにあった。
そして、経済至上主義をはるかに超えた国際的に通用する高い文化的見識は、膨大な読書量などの奥深い教養に裏づけられていた。
日本は世界に誇れる偉大な良識を亡くした。
最後にお目にかかったのは、昨年11月の電気新聞100周年記念パーティーだった。桐花大綬章ご受章のお祝いを申し上げると、そんなことよりもというように、「いつも読んでいます。いいことを書いていますね」と電気新聞書評欄に私が書いていることを励まして下さった。以前勝手に平岩氏と城山三郎氏共著の『人生に二度読む本』を取り上げさせていただいたら、直接にお礼の電話を頂き後ほどサイン入りのご本を届けて下さりもした。
本「視点」欄も、永年にわたり氏が楽しみに読まれていたものである。私は2000年暮、それまで17年間書き綴った本欄を一冊の本『もったいない思い』に纏める機会に恵まれた。惑わず平岩氏に何か一言書いて頂こうとお部屋に訪ねたところ、「喜んで書きますよ」とおっしゃって頂き、”この本に寄せて”という、まさにもったいない貴重な巻頭言を頂いた。それを読んだ故高原須美子さんが驚き、「平岩さんが書いて下さったなんて、あなたの宝物じゃない!」と感歎したものだった。
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