電気新聞「今週の一冊」欄に載せた最近の書籍紹介

経営組織』(2003年7月25日)

経営組織

経営学入門シリーズ
金井壽宏著
日経文庫 860円

 今、特に若者層にとって、会社、組織、働くということが、従来の捉え方から大きく変わろうとしている。ある調査によると、現時点で一年前と勤務先が変わった人は三百三十万人、「いい仕事があれば転職したい」が二十歳代の正社員の半分、四十歳代でも三人に一人はいるそうだ。会社は仕える場ではなく、自己実現の足がかりと捉えられている。

 会社としては、そうした社会環境の変化に対応していかなければ生き延びられない。意欲ある優秀な社員を引き留める策も必要だ。

 そこで古典的テーマではあるが、「組織と人」を見直さなければならない。

 本著の特徴は、テーラーの科学的管理法やグループ・ダイナミックス論、キャリア・デザイン論、ガルブレイスの不確実性論、そして社会学や心理学のアプローチなど古来数多くある組織論を紹介しながら、経営組織を、働く個人の視点から分析しているところにある。自分の置かれた立場に照らして、自分の属するグループは何か、なぜ働くのか、動機付けは、達成感はなど考えてみることができる。

 そうでなくても不祥事や経営不振が続く今日、古い組織が変革を求められているのは明白である。そこで人を働かせる立場にあるミドルマネジメントの役割は重要だ。この本では、「変革型リーダーシップ」と「制度的リーダーシップ」とに分けて分析している。

 変革型リーダーは、@将来に関する大きな絵をビジョンとして描ける、Aそのビジョンを描くために自己の洞察力だけでなく、環境を探り、これまで築いてきたネットワークからの情報を活用できる、B新しいことにひるまず、内なる敵に対処できる忍耐強さ強靱さをもつ、C後輩の育成、世話ができる、D内外に広いネットワークをもっている、E変革の過程で生じる人々の感情に敏感である、などとされている。

 そして、「すごいリーダー」と「できるマネージャー」も比較対照されていて一目瞭然だ。組織の安定的発展のためには、このバランスが大切であるとも。

 当然のことであるが、著者が繰り返し述べていることは、「組織が変わる」とは言葉のあやで、ひとが変わらなければ組織は変わらないということ。組織という実態はなく、意志をもった個人個人の集まりが組織なのだから。なかでも、そのリーダーが変われるためには、環境の変化を察知できる外部との幅広い情報網をもつことが、特に今日求められているのではなかろうか。

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