―道路公団民営化の攻防1000日―
文藝春秋 1600円
総裁の更迭にまで発展した道路公団民営化の動きを、道路関係四公団民営化推進委員会の委員である著者が著わした。
著者は、特殊法人や公益法人の不正や非効率に鋭いメスを入れた『日本国の研究』を九七年に出版している。小泉氏が、郵政三事業民営化論を掲げて研究会の代表をしていた頃であり、その頃から小泉氏の強力な信頼を得ていた。
道路関係四公団民営化推進委員会は、他に多数ある八条機関審議会とは異なる。限りなく三条機関に近い、つまり各省庁や公正取引委員会などに匹敵するほどの位置付けである。単なる御用委員会ではない、内閣に設置された第三者機関である。内閣総理大臣は委員会から受けた意見は尊重しなければならない。
閣議決定された、日本道路公団に投入されている税金三千億円をゼロにし、四十兆円にのぼる債務の返済を五十年を上限に出来る限り期間を短縮し、道路四公団は民営化を前提として廃止することとし、国費は投入しない、新たな道路建設は費用対効果分析で優先順位を決定する、などを受けてそれを細かくつめていくのを任された委員会なのである。
自民党、国交省、地方首長のほとんどが反対勢力の中での委員会だ。
著者はこの民営化委員会に繋げる前に、小泉首相の意を受けて、石原行革担当相の諮問機関である行革断行評議会の委員として特殊法人、認可法人などの廃止、民営化に積極的に取り組んだ。膨大な資料を分析し、会合の度にそうして作成した独自の資料をたたき台にと各委員に配布する。
こちらまで読んでいて、納税者として、あまりに無駄に膨大な国費が注がれているデータに腹が立ってくる。
独自の分析資料を常に準備していく姿勢は、民営化委員会でも変わらない。そのために細かい多くのデータの提出を役所に求める。この姿勢が国民への公開にも通じるところで、「幻の財務諸表」問題などにあらわれる。
各委員が役所の意見に理解を示したりすれば、即役所案に取り込まれてしまう。それでは改革にならない。彼は委員たちに根気強く自説を説得していく。それでも、百五十時間をかけた審議の最終答申である「意見書」を提出する日になって、今井氏は意見が違うと委員長を辞任退席したのだ。
行革を断行できるのは、どこの組織にも属さない強い魂の持ち主でしかないのだろうか。「あとは政治の出番だ」と意見書を受けて言った小泉首相に、著者は一抹の不安を禁じえないでいる。
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