クリストファー・リーヴ著
東本貢司訳
PHP研究所
1300円
著者は「スーパーマン」を演じていた俳優である。95年5月に、馬術競技中落馬し、首を骨折、脊髄も損傷、全身麻痺の瀕死の重傷を負った。数年の治療で驚異の快復をみせ、声優として復帰、講演などで世界を回る。まさにスーパーマンである。とは言え、いまだ人工呼吸器に頼る四肢麻痺者なのだ。
本著の原題は「 Nothing Is Impossible 」である。2001年2月に行った講演の一部から引用している。「古い諺に言うように、何を望んでいるかを知ることです。そうすれば、それが手に入るかもしれないし、またそれを受け入れることができる。成功しようと逆境に立とうと、あなたは生きているだけで意味がある。それが何よりも重要なのです。」
本著には、誰にでも、そう迷うことなく言えるようになるまでの、著者の壮絶な闘いの軌跡が語られている。自分自身との、保険会社との、医療研究技術開発との、政治との闘い。そして、何より大切な家族愛と、この闘いを社会活動に反映させ、成果を活かしていくのである。その精神的強さに敬服させられる。それがまた著者の魅力ある人物像を形造っている。
クリストファー・リーヴ麻痺財団とクリストファー&デイナ・リーヴ麻痺情報センターを創設して、多数のスタッフと医療チームを組み、医療専門誌に先端事例としてデータを発表する。
医療の研究こそが疾病を排除し、人々の苦悩を軽減し、健康管理のローコスト化をはかるものとして、政府に国立衛生研究所の予算倍増キャンペーンをつきつける。
体内であらゆるタイプの細胞や組織に分化できるヒト胚性幹(ES)細胞の医療的研究開発解禁をめぐり、生命倫理から論戦をはる宗教団体をバックにした政治家との医療的論争などなど、身動きがままならず、医療椅子に腰掛けて、声を出すのもたいへんであろう身であれば、精神を働かせる、頭を働かせるにも並大抵でない努力が必要であろうと、著者の医療先端専門知識の深さに感歎するばかりである。
この本をまとめるだけでも、想像を絶する作業があったはずだ。インタビューや講演でのスピーチをまとめようとしたが、その99%が使いものにならなかった。だから、著者が献辞で触れているように、「わたしのそばでコンピーターに向かい、次のフレーズが出てくるのを忍耐強く何時間でも待ち続けてくれた」というスタッフ連と著者の壮絶な共同制作なのだ。
* 著者は、2004年10月下旬、亡くなった。享年52歳。(合掌)
* 夫の介護を精力的にし、社会活動家でもあった夫人のデイナ・リーヴさんは、2006年3月初旬に肺がんで亡くなった。享年44歳。(合掌)
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