水谷修 著
サンクチュアリ出版
1400 円+税
写真と短い文章で綴られた本で一気に読める。
しかし、中身は暗く、悲しく、重い。
夜間高校の教師が、生徒指導で授業の後、夜の街を巡回し、危ない生徒たちと話し合い、助け、面倒をみていく体験談が書かれている。こうしてこの 12 年間に係った子供たちは 5000 人に及ぶという。昼は講演で全国を回る。講話を聞いた子供たちには、これからはみんなは僕の生徒だと、助けの手を差し伸べる。メールや携帯電話、ホームページも公開している。
窃盗、援助交際、暴走族、カツアゲ、リストカット、シンナーなどなど、非行と薬物をやっている子供たち。こうした夜の街の子供たちは、みんな昼の世界から大人たちによって追い払われて来た子供たちだという。「大人のせいであり、子供はその犠牲者だ」と著者は断言する。
大人が貧困や不和のために、子として人としての愛を知らない子供たち。強がってみせても愛に飢えていて、心は開いてみると純真そのもの。著者の誇りは、教師になって、一度も生徒を叱ったり殴ったりしたことがないことだ。とことん話すのみ。
何不自由ない家庭の女の子がリストカットを繰り返す。両親は気づきもしない。友達に連れてこられて著者と話しているうちに理由が分かる。連れてきた子供は著者を相談相手にしていた子供。
シンナー漬けの男の子を自宅で一緒に住まわせるが、「先生じゃ、シンナーやめられないよ。病院に行く。」との一言にカチンときて突き放す。その子はその晩幻覚症状でトラックに飛び込み死亡。亡骸を火葬にしたが、シンナーに骨までぼろぼろにされていて灰しか残らず、子の母親と二人素手で灰を掻き集めた。
この子の行きたがった病院にゆき、医師に諭された。「病気は愛情では治せないのです。風邪が抱きしめるだけで治りますか。薬物依存症という病気は医師が治します。ドラッグの魔の手につかまる若者はどんどん増えています。教育関係者でこの問題に取り組んでいる人は殆どいない。一緒にやっていきませんか。」著者とドラッグとの闘いがはじまった。
このような大きな問題と一人で闘っている姿に感心するが、同時にどうしてここまでストイックになれるのか不思議に思う。休日、休息は全くない。求めがあればどこへでも出かけてゆく。ある少年を庇うために、落とし前として利き手の指一本を切られる。一人ではなく、大人全員の社会の問題なのだが。
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