電気新聞「今週の一冊」欄に載せた最近の書籍紹介

大前研一新・経済言論』(2006 年10月13日)

大前研一著
吉良直人訳

東洋経済新報社
2200+税

 本著は、容赦なく進むIT革命、そこでおきているボーダーレス社会、グローバル・エコノミーの世界を描いている。

 若い世代はPCを自在に操り携帯電話を駆使し、新しいライフスタイルを展開している。これがビジネス社会で展開されてさらに専門的にITが活用され、先端世界はボーダーレスなサイバー・ジャングルと化している。この中では新しく産業の興亡がおこり、企業は国際的にホームレス化し、従って世界の地政学地図も変わってきていると、幾多の成功例を挙げる。

 例えば経済成長率が8%や9%という中国やインドは、これは国を平均しての数値で、途方もない高い数値をあげている地域がある。それが大連市やバンガロール市などで、現在だぶついている世界の富、新しい産業、企業をいかに惹き付け呼び寄せるか、その成功の秘訣を興味深く分析している。

 世界は1985年以降つまりビル・ゲイツ以降グローバル・エコノミーの世界へ否応なく前進している。そこではもはや旧世界の産業革命以来続いている閉鎖された”貧乏が貧乏を呼ぶ”ような古典経済学や国民国家の統治は通用せず、世界に開放された「地域国家」が生き延び繁栄するという。

 「地域国家」の発想は著者がかねてから唱える日本の道州制導入にも繋がる。九州地方が一つになれば人口1350万人、2003年のGDPは5000億ドルを超え、経済規模は世界で15位以内となり、ブラジルや韓国と同規模にある。中央政府の東京でなく、西隣の中国、北隣の韓国、南隣の台湾に目を向ければ東アジアのエンジニアリング・ハブたり得るとする。

 テクノロジーのブレークスルーに促されたボーダーレスの地域国家は、自由で柔軟で知的レベルが高く、国際投資意欲を大いに起こすものでなければならない。すでに弱体化した加工品輸出貿易業を固守保護するため、日本中央政府は弱い円を維持することに専念する余り、2003年だけでその年発行された米国政府証券を3分の1購入した。しめて2000億ドルである。にも拘らず、というか、だからこそか、この年政府は”日本に投資を”キャンペーンを敷いたが、この世界第二位の経済大国への、海外からの直接投資は60億ドルに過ぎなかった。中国への投資は540億ドルだった。グローバル投資家の目には、日本は存在しなかったのである。

 ボーダーレス世界において言語プラットホームは英語であり、本著自体原著は英語で書かれ10カ国で翻訳出版された。

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