電気新聞「今週の一冊」欄に載せた最近の書籍紹介

「満足社会」をデザインする第3のモノサシ』(2006年04月14日)

大橋照枝著
ダイヤモンド社
2000円+税

 本著は、日本のこの大きな変革の時に、右肩上がりを踏襲する従来尺度と異なった、日本の持続可能な豊かさを確立するための新しいものの考え方の必要性を説いている。

 国の豊かさの指標として、GNP、GDPなどが使われ、ISEWやGPI、そしてHDI「人間開発指数」などが開発されてきた。フーバー政権最後の期にGNPを開発したサイモン・クズネッツはその限界を知っていた。「国民の福祉はGNPの尺度からはほとんど推し計ることはできない」と1934年米国議会への製作報告書で述べているという。

 そんな中で、著者が構想してきた「人間満足度尺度」HSM(Human Satisfaction Measure)を、従来のGDPなどの尺度に欠けていた、「豊かさの質」を問い直す第3のモノサシとして、具体的説得力あるデータをもとに提唱し、実際に日本を含む15カ国の1990年から2002年までのHSM指標の時系列データを算定して、2002年の各国のHSM値を出していて、大いに参考になる。

 すでに著者が『静脈系社会の設計』で提示している人間の究極の幸福や満足を達成するための5つの指標、「個の満足度」、「健康」、「ジェンダー」、「環境」、「社会全体の満足」にさらに検討を加え、本著では、「労働」、「健康」、「教育」、「ジェンダー」、「環境」、「所得」のカテゴリーに収斂させている。

 このHSM指標の算定結果は、一位がスウェーデン、米国三位、日本五位、ベトナム十四位、中国十五位である。ただし、「エコロジカル・フットプリント」という、現行技術を前提にし、ある人間集団が自らを養い、その廃棄物を吸収するための生態的容量を土地面積と水域面積に換算する尺度では、日本は十一位に落ち、ベトナムは八位となる。スウェーデンは変わらず一位。

 著者の主張は、既に右肩下がりの兆候は現社会のいたるところに現れている。それを、右肩上がりを推し進めてきた動脈系社会の尺度で測っていっても、持続的真の豊かさは創造できないというところにある。

 静脈系という言葉を、廃棄物処理や循環のあり方のみに止めず、著者は経済、社会、組織のあり方から分析しているのが特徴。静脈系経済はボランタリー経済をイメージ。静脈系社会は搾取抑圧のない市民の論理が通じるもの。静脈系組織は地方分散、ネットワーク型社会を構想している。

 HSM値一位のスウェーデンに、詳細な現地取材を試みているのも、読み応えのある著作にしている。

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