電気新聞「今週の一冊」欄に載せた最近の書籍紹介

ターシャ・テューダーの世界』(2006年03月10日)

ターシャ・テューダー&リチャード・ブラウン著
相原真理子訳

文芸春秋
3689円+税

 ターシャ・テューダーは著名な児童書さし絵画家、童話作家である。1914年、ボストン旧家に生まれた。4人の子供をもうけて離婚。さし絵や絵本の仕事で子供を育て上げる。

 本著は、このターシャの自然との美しいライフスタイルが、彼女の御伽噺のような挿絵と見事な写真で、まるで大人の絵本のように綴られている。大自然の中でのほぼ自給自足の暮らし。裸足で朝から晩まで畑で働く。20年前ニューイングランド・バーモント州の田舎にある広大な農地を買い、自らの設計による家を末息子に手作りで建ててもらい、一人で果樹園や花畑、畑仕事をしてきた。家畜を飼い、乳を搾り、布を織り、ろうそくを作り、昔からの素朴な料理を暖炉でこしらえる。

 これらをこなす道具は、19世紀代から20世紀初頭のもの。彼女は、収集家でもある。18世紀初頭の家具や食器、衣装、アクセサリーなどを大切にもっている。そして、それらは博物館用としてではなく、常用しているのだ。

 アメリカではターシャのライフスタイルはすでに広く知られているようで、小学校の教材でも取り上げられるらしい。この本の共同著者で写真を担当しているリチャードの娘が、5年生の時に学校の課題でターシャについてレポートを書いたことがあるそうだ。
ターシャは、何よりも自分の子供たちのために、絵本を描き、ミニチュアの人形の家を作り、森から木を伐ってきてクリスマスツリーの飾りつけをする。この飾りは、本物のろうそくと、ひいおばあちゃんの収集していたデコレーションで1850年代に作られたものとか。

 冗談に”スティルウォーター教”を創っているというのもいい。スティルウォーターとは動かない水。こころをおだやかにすること。陽の沈む頃ロッキングチェア座って、カモミールティを飲みながら小鳥のさえずりを聞く時間をもてば、ストレスもなくなるでしょうと。

 アメリカ人の多くは歴史がないという劣等感をもつ。が、自分たちが授かったこの国の、開拓前の素晴らしさはどんなだったことか。それを、森林は切り払い、大気には煙がたちこめるようにしてしまった。アメリカ人は、自分たちに与えられたものを尊重しなかったのだと叱っている。

     若い頃から都会を避け、牧歌的暮らしを求めた。「自信を持って自分の夢に向かって進み、自分が思い描いたような人生を
    生きるよう努力すれば、予想外の成功が得られる」ターシャの信条であり、真実なのである。

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