先日、知人に誘われて、金春会定期能を東京千駄ヶ谷にある国立能楽堂で鑑賞した。
番組は、能 経政(つねまさ)
狂言 附子(ぶす)
能 井筒(いづつ)
能 葵上(あおいのうえ)
「経政」ははじめて観た。とてもいい。
仁和寺御室御所に仕える行慶は、源平合戦で戦死した平家の公達平経政の弔いを、彼を寵愛していた守覚法親王(しゅかくほっしんのう)の命で、彼に与えていた琵琶の名器「青山(せいざん)」を供えてとりおこなっている。
すると経政の霊が現われ琵琶を奏で夜遊の昔を懐かしむ。
夕が過ぎ修羅の苦しみの時がくる。霊は灯火に映る修羅姿を恥じて灯火を消して失せる。
経政は平敦盛の兄。二十歳で戦死。
敦盛も16歳で戦死。能「敦盛」がある。その際付ける面が「十六」という美少年の面。
この面を「経政」でも付ける。
平家の儚くも美しい夢が切なく悲しい。
「井筒」は以前にも観ている。
昔男あるいはまめ男といわれた在原業平を純粋に慕う妻の心持ちがこれまた悲しく美しい。
井戸に姿を映して偲ぶ場面にはついこちらも涙が…。
恋慕の情を込めて踊る序の舞も静かでいい。
「葵上」、これも以前に観た。
光源氏の正妻葵の上を呪う光源氏の愛人の一人六条御息所の怨霊が、病床に伏す葵の上を打ち責める。
祈祷に呼ばれた巫女や小聖に立ち向かう怨霊の付ける面は泥眼。次には鬼女となって般若面を付ける。
六条御息所は元皇太子妃という高貴な方。それでも女の恨みは奥深く、やるせなく、恐ろしく、そして悲しい。
能はいい。
能面の凄さ。それぞれの表情を怖いほど表わす。
こちらの観るこころを映すかのように。
父の蔵書の中に、能の詞章がある。
これらは観世流であるが、そう変わりはないので今は私が読んでいる。
Copyright © Etsuko Shinozaki 2003-2015 all rights reserved