『オリンポスの使徒』

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読書日記

2012年08月17日

『オリンポスの使徒』 大野芳 文藝春秋 1200円

今年の8月はロンドン・オリンピックで日本もメダル獲得に燃えた。
そして、8月は日本にとって敗戦、凄惨な太平洋戦争の記憶が悲痛に甦る時である。

この本の副題には、ー「バロン西」伝説はなぜうまれたかーとある。
1932年(昭和7年)に開催された第10回ロスアンゼルス・オリンピック馬術大障害で優勝した西竹一男爵の、陸軍騎兵連隊での馬術育成と、戦争の時代が騎馬から戦車に変わり、戦車連隊長としてチチハル、そして硫黄島で玉砕するまでの、西竹一の国内外の華々しい交流や言動が、多くの資料や聞き取りで綴られている。
昭和の、太平洋戦争に突き進んでいく日本陸軍の思惑、当時留学などで海外特にアメリカ国土の絶大な豊かさを目の当たりに知っている人物たちの困惑なども書き込まれていて、無謀極まりない戦に幾多の人名が失われたことか無念に涙した。
オリンビックは政治とは無縁と、昭和7年には既に満州事変を起こして世界の不信をかっていた時、西男爵の優勝は世界から賞賛された。無縁とはいい陸軍は世界の関心を満州から離した効果を狙ってもいた。
大資産家の西は、自分の代で食い潰すと豪語し、ロス・オリンピックに行くとそこで即金ロールスロイスを買い、ハリウッドで遊んだり、モーターボートを2艘や製氷機付き大型電気冷蔵庫など大型家電をたくさん買い込んできたり、日本に1台という派手なバッカードを贈られ、千葉市亥鼻の宿舎から新橋辺りに夜遊びに繰り出した。夜な夜なの豪遊は有名、が翌朝6時には必ず出勤した。
ロス・オリンピックの英雄西も、暗雲立ちこめる戦下、勝算のない外地の激戦地に送られ、硫黄島で「バロン西出てきて下さい。あなたを死なせるには忍びないのです」という呼びかけが米軍からあったとの伝説を残して逝った。

この伝説を著者は検証する。
この本、実はすでに本屋になく、例によってアマゾンで購入したのだが、何と3750円の値だった。
戦争ものは殆ど読んだことがないのだか、この本はオリンピックと乗馬という今の私の関心に合って、興味深く一気に読んだ。 

 

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