『皇帝フリードリッヒ二世の生涯 上』 塩野七生 新潮社 2400円+税
著者の多分最新作。例によって長編大作である。
著者があるテレビ番組で、フィレンツェやローマを案内しているのを観て、その中で解説されているイタリアルネサンスの種を撒いたらしい中世の皇帝としてフリードリッヒ二世が紹介されるのに興味を惹かれて買った本。
中世の13世紀に、シチリア生まれでドイツ王そして神聖ローマ帝国皇帝に就いたフリードリッヒ二世。
無血十字軍でエルサレムを奪回したり、ロンバルディア同盟軍との戦いなど、ヨーロッパの歴史を囓ったものには懐かしいばかり。
その生涯を、筆者の分かり易い丁寧な、時として現代に戻っての歯切れのいい解説で、長編大作が充分に楽しんで読める。
中世は、精神面のトップはローマ法王で武力面でのトップが皇帝のはずなのだが、キリスト教一神教の中世では何かとローマ法王が幅をきかせる。そこで意欲のある皇帝と軋轢が生じる。
フリードリッヒ二世はイスラム教の支配下でもあったシチリア生まれなので、彼らとも親しい。
フリードリッヒ二世は、神の下にローマ法王と皇帝の二者が並行にあるとする古代ローマ法を基にした「メルフィ憲章」を制定、ローマ法王を度外視した法治国家を作って行く。つまりキリスト教に関わらない近代国家を作るのである。
ローマ法王が目の敵にするはずだ。その法王の名はグレゴリウス。皇帝を異端にすべく、悪名高い異端裁判所を作った法王である。
中世はキリスト教どっぷり、そのキリスト教から離れて法治社会になるのが近代である。その過渡期にルネサンスがある。
こうした難題な歴史を、著者の膨大な史料探究に裏付けられたいわば丁寧そして軽妙な語り口で記されると、たいへんに分かり易く面白く読みやすいのである。
下巻を読み進めている最中だ。
現在のローマ法王が、1000年近くも続いた悪行、例えば異端裁判それに続く魔女狩りなどを、誤りであったと陳謝したという報せが伝わったのはつい最近のことだ。
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