『人類哲学序説』

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読書日記

2019年01月28日

『人類哲学序説』 梅原猛 岩波新書 760円+税 

著者梅原猛が今年1月93歳で亡くなった。「反主流」と言われた哲学者。その旺盛な学び、研究、探求心で次々に新しい説を唱えていた。
私は仕事の関係で、以前「ヤマトタケル」の舞台を観ることができたが、著書は読んだことがなかった。
本著を読んでみて驚いた。もの凄い知識の人だ。それを分かり易く説明する。哲学というと小難しいものだが。 (合掌)

"哲学とは「人間はどう生きるべきか」を自分の言葉で語るもの"、で本著は始まる。2011年秋、ある大学で行った特別講義録を基にしたもの。 この年の春東日本大震災で原発事故が起きた。
西洋哲学を学び、「近代哲学の父」と呼ばれたデカルトを省察して、現在の科学技術文明を基礎づけたとする。解析幾何学、医学、機械学などなど。この哲学は「人間中心」であり、ニーチェに至っては「超人」の説となりヒットラーに生かされた
著者は戦争体験があり、日本文化を研究して、「人」への洞察、「死」という事への関心が歳と共に深まる。天台密教の思想「天台本覚思想」の「草木国土悉皆成仏」という言葉がこの著書、という著者のテーマとなっているのだ。
「ヘブライズムとヘレニズム……」の章で、近代西洋文明はユダヤ文明とギリシャ文明が母体であるか、として省察する。ギリシャに行ってもローマにいっても森がない。人間のために森を開拓し土木建築資財としてあるいは燃料しとて使い果たした。まさに人間中心文明である。
ではエジプト文明は如何か。エジプト文明は多神教である。「草木国土悉皆成仏」に通じる。宗教改革を行ったアクエンアテン(ツタンカーメンの父)が太陽の一神教を唱えたが受け入れられなかった。その後100年後にモーゼが出て彼のエホバの一神教がキリスト教に繋がるという説を紹介。
世界は太古を除いて、自然を犠牲にし発展と称して科学技術追及一辺倒できたが、果たしてそれでいいのか。「森の思想」の章で、中国長江文明が伝播した稲作の文明が太陽と水を深く崇拝し、森の神、山の神を崇めてきたことに注目、「草木国土悉皆成仏」を表す神の山として富士山が挙がる。富士山は、古来日本の歌や絵画に多く登場してきたのだ。
著者は、原発事故を見て、科学技術文明を基礎づける西洋哲学を批判しなければならないと決意した。40年前に対談した歴史学者のトインビーが、「20世紀までは、非ヨーロッパ諸国はヨーロッパの科学技術を採用して自分の文明を作った。日本はその優等生である」といった。でもまた「21世紀になると、非西欧諸国が自己の伝統的文明の原理によって、科学技術を再考し、新しい文明をつくるのではないか。それが非西欧文明の今後の課題だ」とも言ったと。トインビーおそるべし。
著者は、本著は序説であって、本論の「人類哲学」を書かなければならないとしている。
研究は続いていたのであろうが……。

 

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