『実存と保守』

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読書日記

2014年05月23日

『実存と保守ー危機が炙り出す「人と世」の真実』 西部邁 角川春樹事務所 1500円+税

著者独特の語り口で、危機とは何か、文化とはなにか、伝統とは何か、人間とは何か、生きるとは何か、などを解析する。
分かり易い助けとなるのが、章毎に第三者として北海道で育った幼少期からの辛い体験を回想記述していること。
以前に著者の自伝的評論『友情ーある半チョッパリとの四十五年間』を読んで、彼の人となりや頭の中、こころの持ち方が少し理解出来た気がしたことを思い出す。
世界中いたるところで政治の混乱、経済の混迷、社会の衰亡、文化の衰滅が進んでいる。世はまさしく危機の時代に入っている。が危機を定義せずして危機について語るなかれ、と。
危機(クライシス)と危険(リスク)とは異なる。危機は確率的にすら予測できない不確実性なのである。リスクマネジメント(危険管理)はありえても危機管理は不可能で、危機統治が出来るだけだ、という。危機と危険の区別すら行なわれていない今の世は本当の危機は思想の危機であると。
「伝統への気遣い」と「状況への関与」とが相俟って、人間の生き方を偏頗なものでも場当たりなものでも巫山戯たものでもないものにする。伝統というものに遡及していくほかない人間の本来性、それを再発見し保守しようと励むのが、危機における人間の生き方だ、とする。
海外体験の多い著者、40ヵ国以上を訪ねている、というか惨い放浪をした。見慣れぬもの聞き慣れぬものに進んで眼とこころを開いている自分を受他的なのだと理解し、その眼も口も開くことも自分のものだと理解し自分は利己的なのだと理解し、受他を通じての利己を知るには、海外体験は必須とはいわぬが大いに有効だとする。
30ヵ国以上は海外に行っているわたしは、著者と違いパックツアーが主だとしても、彼の言わんとするところが分かる気がする。受他と利己で自らを危機統治している緊張感が大いなる経験になっている。
各々方、そろそろ「死ぬ気で生きる」覚悟をめされよ、と閉める。
 

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