『世界地図の中で考える』

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読書日記

2016年08月14日

『世界地図の中で考える』 高坂正堯 新潮選書 1400円+税

リオ・オリンピックが華々しく開催中。観戦していて思うのは、肌の色、面立ちなどではどこの国の選手がさっぱりと判明しない事。
アフリカの黒人が奴隷として西欧列強により世界に売り広められた
。奴隷商人として巨万の富を築いた事例は五万とある。
北米へは綿花プランテーションの労働者、中南米へは砂糖きびプランテーション労働者などなど。そしてかつての宗主国がその後彼らを移民難民として受け入れてきた。
世界地図はそういう捉え方もできる。

この本は何と1968年出版。8月16日付けで「あとがき」を書いている。日本のアジア覇権追求の意味をも考えたのであろう。今から48年前、終戦から23年が経っている。アメリカがベトナム戦争の泥沼を抜けられずにいた時。私はまだ大学生であった。国際関係に幼い関心を寄せていた時分だ。ベトナムの戦場をこの目で確かめたいとしきりに考えた。何の科目だったか、「ベトナム戦争に関するレポート提出」が課せられたので、多分反戦的レポートを出したのだろう。採点はC。先輩たちにそんなこと書いたらCだと笑われたことを思い出す。
著者は京都大学の国際政治学教授だった。幅広く活躍していた。が、1996年、62歳で没。
本著は半世紀前に著されたとは思えない、現在の世界状況を当時の環境を元に既に的確に問題提起している。今でも十分に考えさせられる。
物量で圧倒しているアメリカ発展途上国に介入していかざるを得ない訳。それは経済発展や技術発展の波はいやが上にも世界に波及してしまうものだから。そして、ベトナムで失敗しているように、文化文明、特に民族のこころというものは、主義主張で制圧と言う政治手段で説き伏せられないものであるということ。などなどを語っている。珠玉の文明論でもある。
特に印象的な事例提示は、客員で訪れたタスマニアでの知見だ。タスマニア土人滅亡と現代文明の事である。
イギリスのインド統治失策など、かつての西欧諸国の帝国主義的植民地政策、 そして、新帝国主義とも言えるパックス・アメリカーナやソ連の引くに引けない世界介入などなど。
将来は経済的に豊かになるなどと当時の甘い「未来学」に警鐘をならす。未来学の大きな目的は、人間を未知の領域に踏み込ませる新技術の副作用を予知し、排除することだ、との指摘は、人類の歴史は「加速」していて今から25年後の世界はコペルニクスが地動説を発見した前の世界と今日の世界が異なるくらい、大きく異なるであろうとケスラーの説を紹介しながら言い、副作用の怖さを見る。今日のIT革命などは知らずにわれわれを副作用が多方面で蝕んではいやしまいか。
「言葉」は人間の能力を著しく増大させると共に、逆に人間を誤って導く点で、人間に与えられたもっとも大きな「両刃の剣」といえようとの指摘は鋭い。今日情報は瞬時に世界を駆け巡り皮相的で間違いもある。真実とはかけ離れる場合もある。いわば表面的イメージだ。それに左右、惑わされるSNSや選挙宣伝活動などなど、恐ろしい世の中ではないか。

現代の超大国の意義、役割が問われている。

当時は「イスラム教」とは言わずに、「回教」といっていたのかな。
そして、「アジア」という表現はが使い始めたのかしら、そして語源は、何時から。

いろいろと考えさせられた必見の書だ。
16.7.26の毎日新聞の記事が目を引いた。第一次世界大戦中、オスマン帝国が領内のアルメニア人を迫害、男性住民中心に約150万人が殺害されたとアルメニア側の主張。トルコ側は認めていない。
「虐殺」と最初に認定した国はウルグアイ、1965年。今年6月にドイツが認定して世界24カ国ロシア、カナダ、フランス、アルゼンチン、ポーランドなどが認定している。アメリカ、日本は入っていないようだ。

 

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