『その「正義」があぶない』 小田嶋隆 日経BP社 1500円+税
この本も「家庭画報」の図書紹介のページで見つけてアマゾンで購入。
題名に引かれて。著者は全く知らない。
読み進むにつれてこころが苛ついてきた。取り上げるテーマや言葉使い、論調が、私が既に嫌気がさして全く避けているTVや新聞、雑誌をみているようで。
辛抱して読んでいるうちに、成る程と思われる節も散見されて、いつしかここ2、3年のマスコミ情報のブランクを埋めさせられた感じだ。
考えさせられた点をいくつか上げる。
「原発と正義」で、政府及び東電は一連の情報コントロールを通じて、爆発的な不安の高まりというパニックを回避し得たかもしれない。少々のバニックで国がひっくり返ることはない。がその代わりに国民全般に根の深い「不信」を植え付けた。つまり信頼を失った。この取引は長期的にみて大きな赤字になる。むしろ大きなパニックはこの先にやってくる、と。
* 1年が経って東電トップの今日の対応をみていると、己を失い社会環境が全く見えていない哀れさを感じる。(以下*は筆者の一言)
「メディアと正義」で、島田紳助引退のコメントでフジテレビ「とくダネ!」の小倉智昭キャスターがとんでもないアウトなステートメントを発信してしまったと。「ある種の圧力団体、まあ闇の社会の人たちてあったりする存在がトラブルを解決してくれた場合、解決してもらった本人の責任はどこまであるのか。みなさんの周辺でも知らないうちに闇社会がトラブルを解決してくれていたということが、どこかで起こるはずなんですよ」 小倉キャスターは芸能界の多数派の内心を代弁している。闇社会に対していわば必要悪とでもいっている不適切な意見をマスメディアで公に漏らすこと自体100%アウトだ、と。
* 小倉キャスター自身、そんなお世話になったことがあるのではないかと勘ぐった。
「相撲と正義」で、朝青龍の暴力事件について、大相撲の世界が外国人力士を適正にマネジメントできていないと指摘する。別の言葉で言えば心遣い。あるいはホスピタリティ。「管理」ではない。管理は冷凍食品を扱う時に使う言葉だ、と。外国人労働者の権益と待遇、彼らの心的負担と爆発、日本文化の独自性と普遍性、その閉鎖性と因循。こうしたことをもっと議論して決着した後に、「品格」は、見る者と見られる者が対等の立場で語り合うべき話題だ。というよりも、品格は本来語るものでないし、評価するものでない。人が去った後に香気のように漂うものだ。いずれにせよ品格を語る者は品格を失う、いま語っている私も含めて、と。
* 品格を題名に入れた本がベストセラーになる。その著者がおよそ品格とかけ離れたタイプであっても。失うものもなかったか。
「日本人と正義」で、「子供」は面倒くさい、という。何のことか? 原稿で子供と書くと「供」はお供であり大人のお供となる、或いは神への供え物となると捉える向きがあるので「子ども」としてくれないかと編集者がいう、と。そして、非実在青少年の実存的不安とあるが、著者も分からない。どういう意味だ、不在地主みたいなものかと。実は東京都が都議会に提出した東京都青少年の健全な育成に関する条例の改正案にでてきた言葉だそうだ。つまり児童ポルノを規制しようするもので、漫画やアニメでキャラクターをも対象にしようというもの。都議会の議事録を読みながら、議員のみなさんは欲望と愛情を正反対の概念ととらえているかもしれないと。愛情と欲望は同一物でこそないが異母兄弟くらいの存在。ショーペンハウエルはこう言っている。「強姦によろうと結婚によろうと、神の目から見れば子供を産むという同じコースでしかない」 スパルタ教育という言葉も引き合いにだす。ウウィキペディアは拷問教育ともいうと解説。そも、1969年に『スパルタ教育』という本がベストセラーとなつた。著者は石原慎太郎。表紙は一糸まとわぬ少年の全身イラストだったそうな。この著者が、40年後に青少年健全育成条例を改正しようとしたわけだ。知事閣下は、若き頃の判断を後悔しているのか、なかった物にしたいのか、あるいはもうそういう細かいことは思い出せない、脳が縮こまっていて、と。
* チェコの作家にしてビロード革命を成し遂げたヴァーツラフ・ハブェル氏と石原氏は随分違うなと、昨年暮れ亡くなったハブェル氏に思いを馳せた。
「政治と正義」で、「余計なことは言わない」「派手なことをしない」「突出しない」。何のことか? 農家の嫁の心得? 野田首相が政権運営の心構えとして側近議員らに指示しているもので、名付けて「安全運転三原則」という施政方針だそうな。どじょうが金魚のまねをしてもしかたがないが、メダカのまねはいくらなんでも情けない。とりあえずなまずだな。世間の初期微動をいち早く察知して適切に行動してくれるとありがたい、と。
* 消費税増税を昨日閣議決定した野田総理。世間の微動どころか根本的な活断層を全く意識していない泥鰌のぬるっとした面もちが強みか。
まぁ、結構おもしろく読んだことになる。
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