女優光本幸子さんの、能仕立ての独り舞台『あこがれいずる魂』を、南青山にあるてっ仙会能楽研修所で鑑賞した。
光本さんとは三木会でご一緒して以来のお付き合い。
源氏物語六条御息所を、六条御息所とその娘秋好中宮の二役で、源氏をめぐる女の情の深い部分をせつせつと時には恐ろしく物語る。
光本さんの美しさに惚れ惚れする。
当たり役になるのでは。
能では、六条御息所をテーマにした曲として、「葵の上」や「野宮」がある。能では、六条御息所が嫉妬に狂うところは般若の面を被る。
光本さんは面も後見もなし。
能管(笛)一人藤田六郎兵衛氏が後に居るのみ。
正面に秋好中宮の供えた秋の花と、橋掛りに六条御息所が携えた明かりが置かれるだけ。
"はるけき野辺を分け入り
給ふより、いともの哀れなり
秋の花みなおとろえつつ、
浅茅が原も枯れ枯れなる虫の音に、
松風すごく吹きあはせて
いと艶なり。
源氏物語をもう一度読み直そう。
わが家には、桐箱に入った谷崎潤一郎訳の初版本がある。
第一部で、"源氏物語の時代の音楽"があり、解説で古来琵琶や琴が限られた高貴な人しか弾けない貴重なもの、そして曲があったことを知る。
楽琵琶による秘曲「揚真そう」「啄木」が岩佐鶴丈氏の演奏であった。
「揚真そう」は楊貴妃の作曲と伝えられている。
「方丈記」を記した鴨長明は、鎌倉時代前期ではあるが、秘曲を奏することを許された琵琶の奏者でないのに奏して密告され、罰せられたのだそうだ。
こころ静かに、悠久の世界に思いを馳せることのできたスローな舞台であった。
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