イタリア・スローライフの旅
イタリア北部にあるブラという小さな町は、「スローフード運動」発祥の地である。そのブラを含めてイタリア北部の各地に数年前、日本ヒーブ協議会で”スローライフに関するスタディー・ツアー”を実施した。
スローフード運動は、アメリカ系ファーストフードの、三分間で画一の味が世界中の子供たちに、しかも美味しいものだと浸透する怖さにストップをかけるもの。@子供たちに家庭それぞれの味を伝える、Aその土地で収穫できる食材を大切に使う、B農業を含め地場産業を育てる、などを運動としている。フードだけでなくライフスタイルそのものを、人間の身丈にあった地に足の付いたものにしていこうというものである。
訪問したブラ近郊にある、国際スローフード協会会員のかたつむりマークを付けたエノテカでは、店主が「スローフードなんてわざわざ言わない。普通のことをやっているだけです」と言う。そして、その地の自慢の白ワインや、葡萄の搾りかすのペイスト、コルゴンゾーラなどの各種チーズや生ハム、兎肉やほうれん草の詰め物パスタ、ヘーゼルナッツ・タルトなどなど、郷土料理を二時間はかけて勧めてくれる。親しくしている小さな農家兼ワイナリーに、この地自慢の一面葡萄畑の中を案内もしてくれた。
パルマでは、あのパルミジャーノ・レッジャーノ工場を訪ねた。家族経営の小さな工場だ。敷地に大きなミルクタンクが三本立つ。近くの牧場で乳牛を千頭飼い、そのミルクからチーズを作るという昔ながらの農家方式を続けている。父親が亡くなって、母親と三人の子供たちが働いていた。大きな倉庫には、巨大なパルミジャーノの玉塊一万六千個が熟成の眠りについている。小さな店頭に、隣人が自転車で、イタリアのチーズの王様といわれるこのパルミジャーノを買いに来た。
パルマは菫でも古くから有名。オペラや小説に、パルマの菫を取りよせ恋しい人に贈るというひとこまがよく出てくる。生ハム工場の女性広報部長がおみやげに紫の菫の可愛い造花の花束をくれた。
みんな、自分たちの土地を、仕事を、暮らしを、大切にしてゆとりを持って過ごしている。
豊かさが身についていた。
こころをスローにすること実行委員会
これからはスローに生きようと、こころが充実してきた。このツアーの翌年、退職した。
イタリアで見聞きしたことを暮らしに取り入れればいい。先ずは、講演での結論は”スローな社会を育てましょう”ということになった。私の頂く演題は環境問題やエネルギー問題、介護問題のため、当然の結論であり、聞いてくださる方々も後で寄ってきてご自分たちのスローな話をして下さるほどだ。
そして知人らに呼びかけ、「こころをスローにすること実行委員会」を立ち上げた。こころの豊かさを考え、二時間かけてゆっくりの美味しく楽しい昼食会でおしゃべりしたり、素晴らしい地方への遠足会をしたり。 女性は勿論だが男性の仲間が広がるのもうれしいばかりだ。
私はこの会に出来るだけ和服を着てゆくことにし、電車は各駅停車で。
そして、「忙しい」という言葉を使わないよう心がけている。忙しいとは、心を亡くすことだから。
私のホームページ『ニュー千葉プロジェクト』に、特集「スローライフ」の項目を設け、上記のスローに関する体験あれこれを報告している。ご高覧賜れば幸いである。
(会員 ホームエコノミスト 篠崎悦子)
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