『ローマ亡き後の地中海世界 海賊、そして海軍 1』 塩野七生 新潮文庫 590円+税
塩野七生さんの著は、読んでいて面白く次から次へと読みたくなる。
この著は、暗黒の中世といわれた時代の、地中海地方に的を絞っての物語り、読み出したら止らない。
古代ローマ時代が終わり、ルネサンスまでのおよそ1千年間、ヨーロッパではキリスト教のローマ法王と東ローマ帝国(ビザンチン帝国)と、そしてイスラムからの脅威に対抗さすべく法王が作った神聖ローマ帝国皇帝との勢力争い続きで、文化芸術政治はおよそ発展せず、暗黒の時代と見なされていた。
しかし、あに図らんや、この時代は他の視点から覗けばイスラムの台頭が華々しく、「右手に剣、左手にコーラン」の聖戦が海賊と化して北アフリカからヨーロッパの地中海沿岸、さらに奥地へと略奪・殺戮・奴隷化を重ね続けて、イスラム化を果たした。
いち早く成し遂げられたのがスペインである。観光地で名高いコルドバ、グラナダなどなど。しかしこの著ではスペインのケースには殆ど触れられていない。
東ローマ帝国皇帝ユスティニアヌスの死から5年後、570年アラビア半島のメッカでマホメットが生まれる。予言者マホメットは武人としても優秀で、生前せいぜい20年間でアラビア半島をイスラム化する。後継者たちも、「戦いに行け、聖書の真の教えを誤って信仰している民(ユダヤ、キリスト教徒)に向って」、「不信仰の徒に出会ったときは、大量の血を流させ、捕囚をつなぐ鎖をしめつけよ」と聖戦(ジハード)を続ける。
通称サラセン人と一括呼ばれるこのアラブ、バルバラ、ムーアなどの民族は「家」をもたない。テントでの放牧移住だ。したがって「国」という意識もない。強いて言えば、イスラム教を信ずるものたちの「イスラムの家」がある。これを聖戦で世界的に大きくしていく。そして8世紀時点で、アラビア半島生まれのイスラム教徒が「原イスラム教徒」で、各地で改宗してイスラム教徒となった者は「新イスラム教徒」として区別された。国家がないということは統治が一律一貫持続せず、勝手にそれぞれ暴れ回り略奪し尽くすと引き上げる。正に海賊なのである。
こうして、地中海世界は無謀にイスラム化していくのである。
海外旅行をしていると、イスラム文化の遺跡がいたるところに現存している理由が見えてくる。イスタンブール、スペイン、イタリア、南仏などなど。
そして、何やら現代の中東の動きを理解しているような気になってくる。
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