『人間の土地』

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読書日記

2016年07月19日

『人間の土地』 サン・テグジュペリ 新潮文庫 552円+税

先般4月のモロッコへの旅で、アラビア半島上空を飛び、その砂漠の凄さに驚異した。さらにあたりの上空と言っても砂漠ばかりでナイル川などほんの筋。そして、モロッコではサハラ砂漠を片道四輪駆動で突っ走ること1時間、ラクダに揺られて小1時間合わせて4時間砂漠の旅をした。
その時、サン・テグジュペリの本を思い出したのだった。何冊か読んでいるが、この『人間の土地』を読み返した。

まだ飛行機が飛行路が未開発の頃の飛行士であった彼の本は単なる冒険譚ではなく、人間の本然に思考が及んでいる。
ぼくら人間について、大地が、万巻の書より多くを教える。理由は、大地が人間に抵抗するがためだ。人間というのは、障害物に対して戦う場合に、はじめて実力を発揮するものだ」ということばでこの著は始まっている。

「飛行機は、……またなんと微妙な分析の道具だろう! この道具がぼくらに大地の真の相貌を発見させてくれる。道路という物が、そういえば、幾世紀のあいだ、ぼくらを欺いていたのだった」 
「廷臣たちは、王様を欺いて、そのお通り筋の両側に、楽しそうな背景を作り上げ、人を雇って、その前で踊らせておいた。細い一筋の道以外、王は自分の国の何も気づかず、田舎の奥で餓死にしてゆきつつある草民が、自分を怨嗟していることにはまるで気づかずにしまった」「道路というものは、人間の欲望のままに砂漠を避けて泉から泉へと行くものなのだ」
「ところが、ぼくらの視力は研ぎ澄まされ、……飛行機のおかげで、ぼくらは直線を知った。町から町へと練り歩きたがる道路を捨てる。離陸と同時に遠い自分たちの目標にぴたりと機首を向ける。するとその直線的な弾道のはるかな高さからぼくらは発見する、地表の大部分が、岩石の、砂原の、塩の集積であって、そこにときおり生命が、廃墟の中に生え残るわずかな苔の程度にぽつりぽつりと、花を咲かせているにすぎない事実を。」

こうして、著者の過酷な体験、リビア砂漠で3日間水なしで遭難アンデス山に遭難死した先輩僚友の捜索などなどを、人間の普通の根源を暖かく見る目で綴っている。

著者は、フランス解放戦線に従軍中、偵察機に乗って飛び立ったまま、地中海上で行方不明となった。ナチの戦闘機に追撃されたものとみられている。1944年。
2000年5月28日の日経新聞に、マルセイユ沖で、彼の戦闘機だったらしき残骸が発見されたと載っていた。生誕100年目。切り抜き記事が挟んである。

この本は、世にも現実的な行動の書であると同時に、最も深遠な精神の書である。 

 

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