『ロリ・マドンナ戦争』 スー・グラフトン 扶桑社ミステリー 750円
著者スー・グラフトンの新刊を楽しみにしていた。
ロスエンジェルスで颯爽と活躍する女探偵キンジー・ミルホーンのシリーズものを、『ロマンスのR』までは読んだが、次がなかなか眼にとまらないから。このシリースは『アリバイのA』からアルファベット順に書かれていて、Rまでは読んだ。
ネット本屋のアマゾンから推奨されてきたので買ったのがこの『ロリ・マドンナ戦争』。
何と今から40年前の作品。時はベトナム戦争が泥沼化して、アメリカでは反戦活動や革命運動など市民が社会変革を強く求めていた頃。1961年の11月1日から4日の出来事として設定されている。アメリカにとって象徴的な月。大統領選だ。
テネシー州の高原地帯の人里離れた奥地に住む2家族。先住民との混血と思われる暴力的で粗野な一家と、キリスト教信者で近代法治国家に生きる一家が、土地の所有を廻って家族ぐるみの死闘を展開する。
"「だからって、親父に口答えはできねえだろう」とルデー。
セブは兄を見つめ、うんざりしたような笑みを浮かべた。……セブは自分や、家族、フェザー家の連中のためにも前もって嘆き悲しんだ。互いに納得した上で哀しみの季節に突入していこうとする二つの家族。何が目的なのか、先に哀しみしか見えない、そのせいで、もう後戻りのできない旅路へと、なんのために突き進んでいくのか。セブは、これまで、誰も説明してくれなかったさまざまな知識が書き込まれた本を読むように、周りの景色を眺めた。……"
著者は、ミルホーンシリーズを書く前にこのような硬派な社会派も手がけていたのだ。凄い。
映画やテレビの脚本もこの頃すでに書いていた。
『ロリ・アマンド戦争』も映画化され、著者自ら脚本を書き、レイバン役をロッド・スタイガーが、パップ役をロバート・ライアンが、コック役をジェフ・ブリッジスが演じている。
[11.09.10「世阿弥」]← | →[次へのリンク] |
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