『世阿弥』

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読書日記

2011年09月10日

『世阿弥』 白洲正子 講談社文芸文庫 940円+税

世阿弥は『花伝書』、『申楽談儀』、『花鏡』などの能に関する著書や談議集が残っている。
それらの古典を忠実に引用しながら、自身4歳から能を習いはじめた著者は、今日の能を大成した世阿弥の天才的思いを敬愛の念を込めて探っている。
世阿弥は観阿弥の子として将軍義満の前で舞い、11歳で義満の寵童とされ、父の死後楽頭として三代の将軍に仕える。
が、義教の代になり突如失脚。その後佐渡に流されたりし、最後の数年を婿の金春禅竹のもとで過ごしたと伝えられ、無名の老人として80歳で世を去ったとされる。
乞食の所業とも見なされていた申楽を、今日では当たり前になっている能の形に造った希代のひと。
義満には御思人、高橋殿という傾城がいた。万事につけ色知りで、終始落ち度がなく、上のご機嫌をよく察し、さまざまにこころをつかって立身出世した。
おのれの欲を全く捨てたこの見事な女性の立ち居振る舞いを、同じく側で仕える若者として、そして新興芸術を形作りまとめるため、一挙手一投足ことごとく見習ったことであろう。
能の専門的な奥義であるが、「秘伝」、「花」、「幽玄」、そして色知り、和合、仮面、序破急といった世阿弥の能の教えは、今日のわれわれ一般の人間の生活所作にも大いに参考にしたいことである。
美を求める世阿弥を幸福論者と著者はみた。
著者の著書は他にも多数ある。この他は『白洲正子自伝』と『随筆集「夕顔」』しか読んでいなかったが、奥の深い考察力や言葉使いで、もっともっと読んでみたくなった。

 

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