『わりなき恋』 岸惠子 幻冬舎 1600円+税
本屋で、手にとって、69歳の恋、有職婦人の…、ふむふむと興味を覚え買った。
「村上春樹」は横目で見て、相変わらず食わず嫌いだ。
国際的なドキュメンタリー作家であるいい女の、69歳から75歳までの「恋」を、ほぼ会話形式で綴っている。
酸いも甘いもかみ分けた高名なフリーランス有職婦人の、ロマンチックではあるが現実的な最後の恋が、切なくやるせなく披瀝されている。
相手は、一回り年下の、海外出張の多い、超激務な大会社重役。「でも、でもね、逢えてよかった…」と言わしめるいい男。
感情移入の激しい私など、読んでいて、つい涙ぐんでしまうよ、ったく。
著者の作品は初めて読んだが、鋭敏な現代社会の分析眼、見事な構成力には感心した。
女優としての岸惠子、ジャーナリストとしての岸惠子の豊かな体験、取材を、国際的歴史的事件に係わらせながら、現在の主人公の恋と絡めて編んでいる。著者自身を含めて?
これだけ多くの戦後の国際的エポック・メーキングな事柄が出てくるのだから、それらを会話の中で一言で終わらせないで、年代の意味、国際的社会的背景、政治的分析、該当する人物の背景、数値的検証、さらには恋仲の彼の、解せない習性を作り上げた日本企業の体質や風土などなどを書き加えていたら、別の小説が出来上がっていたであろう。
海外の小説によくある社会的重厚な読み出のある、しかもヒューマンなものになっていたのではなかろうか、と、わたしなどはもったいない気がする。
が、それでは主題の「わりない恋」の激情が薄らいでしまうのかも知れない、な。
本物の大人の女の、老いらくの恋は哀しい…、な。
ふと、淡谷のり子の謡うブルース、"小雨煙る 夜の銀座… …" が口をついてでてきた。
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