『眼鏡と篁』

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読書日記

2013年10月30日

『眼鏡と篁』 戸田佳子 角川書店 2571円+税 

歌集である。
作者は、我が高校時代からの友人。『寒雷』、『いなづま』、『九段坂』につぐ第四歌集である。
平成20年から24年までの5年間に詠んだ歌603首が収められている。
この間は、自然界でたいへんなことが起きた、ある種特別の時期である。
彼女の歌詠みの人生でも、大きな区切りになることが起きたようだ。

過日、出版の祝いを込めて二人で会食した。
恩師の遺志をついで、さらに10年研究を続けると、芯のしっかりとした一家言を成した歌詠みの道を歩み続けていた。

彼女の、落ち着いた洞察眼、奥深い感受性は相変わらずで、旅にあって、あるいは身近にふと見つめ感じたこころを、さりげなく詠んでいる。
日常、読者も同じように感じたことがあるはずの様子を、改めてこころの奥深くにしみじみと通わせ思わせてくれる。
彼女の歌を読んでいると、日頃の表面的な浮ついた目線が反省させられる。
忘れ勝ちな大切な日本語のこころが活かされている。
幾度でも読んでいる、いい歌集だ。
いい友をもったものだ。

幾つかをあげてみよう。

淡々と生きてゆくことの難くしてしみじみとわが爪を見るなり

病むままに逝きたる母をしのぶとき涙流るる予期せぬものを

健やかなる卒寿の母の作りたる漬物を夫は日々によろこぶ

明らかなる被災の友の家の跡友もわれらも言葉なく立つ

護符として守りしを見る十七の佐太郎に与へし茂吉の葉書

 

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